福田和也に学ぶ。すべての保守言論人が出直すべき理由とは「吟味する精神の欠如」【平坂純一】
「吟味の人 文芸評論家・福田和也」を語る
第三部「乱世を生きる」はこの書のサビであり、第八章「価値ある人生のために」は保守にとって重要な、福田恆存以来の、個別・具体的な状況における人生論や社会論が開陳されている。どこか三島由紀夫の『不道徳教育講座』を思わせる逆説的な悪の肯定を思う箇所もあるが、三島のそれは露悪的でチャイルディッシュに思えなくもなかった。清濁併せ飲んで悪徳の在処示すこと、そして、それがより本質的な事に近づく。この自覚は福田氏の随筆が上質に思え、また衒いがない。三島が独仏など大陸系の言葉を解さなかったが故の軽さが関係するのかもしれない。
そして、第三部第九章「人でなし稼業」で僕は確信した、福田氏は評論家稼業に最初から諦観があるのではないか? 少なくとも、政治と文学に本来、垣根がない。であるにもかかわらず、現実が直裁的に何かが変わること、そしてその意志に対する諦めから筆を取っているのではないか。そうでなければ、ある書物にあった「考えること、知ることで、人は必ず保守に行き着く(文意)」の言もない筈であり、博覧強記を通り過ぎた蓄積から垣間見られる、彼の繊細な男性性も確認できない筈である。
この書のもたらす、あらゆる書物への「吟味」精神は、学問を愛する全ての若人、保守人士に伝えるべきであり、本書は必携の一冊である。古典もトンカツも普く創作物を平らげるべし! 何もデフレ脱却すれば保守派が勝利の凱歌!…ではない。問題はその次である。昔の左翼の標語に準えれば、「若者よ、“頭も” 鍛えておけ」と換言できる。この書を全部理解できる若手も嫌いだが、理解しようとしない若者はもっとダメだ。談志家元の率いた立川流が、古典落語のみならず講談・端唄・舞踊など古典芸能の全般を体得させられたように、この書を通じて、われら前座・二つ目の前には福田和也氏の精神が屹立するのである。
『福田和也コレクション1』この労作まで辿り着いた福田和也氏に満腔の敬意を表したい。
ところで、本格的な落語論や天皇論、野坂昭如、泉鏡花、獅子文六についての文章は次巻を待ったらいいのだろうか?
著者略歴
平坂純一(ひらさか・じゅんいち)
1983年福岡県出身。中央大学法学部卒業後、司法試験よりも保守思想家・西部邁の私塾に執心する。脱サラしてアウトローの生活を送った後、フランスの保守主義に関心を持ち、早稲田大学文学部フランス語フランス文学コースに再入学。在学中に西部邁の推薦で雑誌『表現者』にて「ジョゼフ・ド・メーストルと保守主義」でデビューする。現在は後継雑誌『表現者クライテリオン』にて、「保守のためのポストモダン講座」を連載中。KKベストセラーズより「ジャン=マリー・ルペン自伝 上巻(仮)」を出版予定。
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✴︎KKベストセラーズ 好評既刊✴︎
『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』
国家、社会、組織、自分の将来に不安を感じているあなたへーーー
学び闘い抜く人間の「叡智」がここにある。
文藝評論家・福田和也の名エッセイ・批評を初選集
◆第一部「なぜ本を読むのか」
◆第二部「批評とは何か」
◆第三部「乱世を生きる」
総頁832頁の【完全保存版】
◎中瀬ゆかり氏 (新潮社出版部部長)
「刃物のような批評眼、圧死するほどの知の埋蔵量。
彼の登場は文壇的“事件"であり、圧倒的“天才"かつ“天災"であった。
これほどの『知の怪物』に伴走できたことは編集者人生の誉れである。」